共感覚の基礎知識

A.共感覚って?

共感覚(synesthesia)とは、ある刺激に対して二つ以上の異なる感覚の関連を感じる感覚です。
たとえば、文字に色を感じたり、音に色を感じたり(色聴感覚)、形に味を感じたりする。

共感覚には以下の2つのパターンがあると考えられています。

1.非常に明瞭に感じられるいわゆる「共感覚保持者」→200人に1人~25000人に1人
2.意識はしていないが緩やかに共感覚を感じている→ほとんどすべての人?

では、次に「共感覚保持者」について考察します。

B.共感覚保持者・・・子供のころは誰でも共感覚保持者?

子供のころ(言葉がしゃべれるようになる前)には、各感覚がまだ確立していない為自然に共感覚を保持しているのではないかと考えられています。

以下の様な先行研究が存在します。

先行研究#1 / ローレンス・マークス(Lawrence Marks)

幼少時に強い共感覚を体験した子供達の多くは大人になるとそれを失うが2000人に一人の割合で持ち続ける人もいる。人間の発達段階での生理的な変化によって、共感覚が起こる。

~Marks, Lawrence E. “Synesthesia: The Lucky People with Mixed-up Senses.” Psychology Today 9,1975

先行研究#2 / ダフニ・マウラ(Daphne.Maurer)&チャールズ・マウラ(Charles.Maurer) 

生後4ヶ月未満の乳児は皆共感覚的な反応を示し、脳が感覚器官ごと独自に反応する様に分化がなされていない。

~Maurer, Daphne and Maurer, Charles, The World of the Newborn, New York Basic Books, 1992

先行研究#3 / デイヴィッド・レヴコヴィッツ(David Lewkovicz.)&ジュエリー・ターケヴィッツ(Gerald. Turkeaitz.)


幼い乳児は五感のいずれにおいても、その刺激の強弱しか区別していない。また、視覚刺激と聴覚刺激の間には何の区別も存在していない。

~Lewkovicz. David and Turkeaitz. Gerald, Intersensory Interaction in Newborn, Child Development 52, 1981

C.共感覚は遺伝するの?

感覚的な感覚は子供の頃はかなり強く誰もが持つようです。
その感覚は次第に成長に従ってだんだん意識されなくなるようです。
しかし、ある特殊な遺伝的要因を持つ人はその感覚を保持したまま大人になる場合が多い。
その遺伝について1995年くらいからケンブリッジ大学で研究されました。

先行研究 / ケンブリッジ大学での研究

・共感覚という遺伝的特性はX染色体を通じて遺伝する。
・男性は皆X染色体とY染色体を持っている。娘には遺伝的に父親の持つX染色体が必ず引き継がれる。
よって共感覚は、その能力を持つ父親から娘に100%遺伝する。父親から息子には遺伝しない。
・息子は母親からX染色体受け継ぐ。しかし母親は2本のX染色体を持っている。
よって母から息子へ遺伝する確率は50%になる。
・共感覚の男女比はおよそ男:女=1:7となっている。
よって、遺伝的な形質によって共感覚が引き起こされている事が裏付けられる。

~Patoricia Lynne Duffy, Blue Cats and Chartreuse Kitters (邦題:ねこは青、子ねこは黄緑)早川書房 2002

D.得られた共感覚はその後どうなるの?

ほとんどの人は、無意識に感じられる緩やかな感覚としては残りますが、子供のころは誰もが保持している「明確な」共感覚が次第に消滅すると考えられています。

消失する理由について以下のような先行研究 / ラマ・チャンドラン(V.S.Ramachandran)

刈り込み遺伝子の存在について
・胎児の時、我々は誰でも脳内に過剰な結合(共感覚的な結合)をもって生まれる
・その結合(共感覚的な結合)が「刈り込み」遺伝子の作用で刈り込まれ、普通の感覚に落ち着く。
・共感覚の人たちは、「刈り込み」遺伝子に欠陥があり、余分な結合を切ることができない。
だから共感覚が生まれる。

~「脳の中の幽霊」「脳の中の幽霊ふたたび」角川21世紀草書

E.では、普通の人には共感覚はないの?

共感覚比喩といわれているおぼろげな感覚をだれもが持ち得ています

共感覚的比喩とは、視覚・聴覚・触覚等々の間隔の関連性から感じることができるインスピレーション(連想)へを指します。

たとえば、広い草原の絵を見たときに感じる爽快感とか…

つまり、共感的比喩は芸術的なインスピレーションに繋がります。

では、ここで共感覚的比喩を用いている例を示します。

1.絵画における共感覚的比喩の実例

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題名:「Silence is so accurate.」 (静寂がとても正確です。)

Mark Rothko(1903-1970)
※ロシア生まれで,アメリカで活動を続けていた画家

 

 

 

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「音楽 ピンクと青Ⅱ」

~音楽を”眼でみえるもの”に翻訳した例~

Georgia O’Keeffe(1887-1986)

 

 

2.言葉と色彩の関連

過去の文学作品の中にも共感覚的比喩を用いている例を見ることができます。

ティム・キャロル(T. Carol)~イギリス,グローブ座の演出家

シェークスピアは、台詞の中には共感覚的比喩用いている。
A.複数の感覚を結びつけた比喩表現・・・・「心が石になった」、「苦い寒さ」
B.抽象的な概念を使った比喩・・・「音楽が波に運ばれている」

3.マルティメディア

A.音楽と映像の融合
 
共感覚的な感性が反映された一例:ウォルト・ディズニー社制作,映画「ファンタジア」
音楽を表す映像は共感覚または、2つ以上の感覚の連携によって描写されていると言えます。

B.音楽と映像と触覚(圧力センサーも含む)の融合
 
●東京ディズニーランド:「Star Tours」、「ミクロアドベンチャー」
●東京ディズニーシー:「ストームライダー」
 
以上のアトラクションは、観客が映像(視覚イメージ)と圧力センサーによる姿勢変化と立体音響(聴覚イメージ)の組み合わせによって、バーチャルリアリティを体験する事ができる。
さらに、「ストームライダー」では、水蒸気等の噴出によって触覚にも刺激も与えている。

 

 

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