大人のピアノレッスン【基礎編】

【参考記事】ムジカノーヴァ2009年6月号執筆記事を改編して転載させていただきます。ご覧いただければ幸いです。

1.生徒さんたちとのお付き合い

大人の方でピアノを習う人たちを大まかに4つのグループに類別してみましょう。

グループ名 年齢 音楽的経験 その他
A ~30歳代 高校生位まで何らかの形でピアノを習っていた。もう一度習い始めたい。演奏を極めたい。 社会人。独身の方が多い。
音大出身の場合もある。
B ~50歳代 昔習ったことがあるが、間が空いてしまい少し忘れている。 女性:子育てが落ち着いた。
男性:仕事も順調。趣味の時間を作れるようになった。
多趣味。
サークル活動等もしている。
C 60歳代~ 全く初めて。昔からピアノを弾いてみたいと思っていた。やっと時間ができた。 仕事はリタイアしている場合が多い。
子供の頃はピアノを習えなかった。
だから、今憧れのピアノを習いたい。
子供たちが習っていた時のピアノが家に残っているし、
D 60歳代~ だいぶ前に少しだけピアノを習った経験がある。 実は今はコーラスなどにも興味がある。音楽が大好き。人生をエンジョイ中

各グループについて

A 子供の頃からの演奏経験を活かしてよりより上達することを目指している方々。社会人になって人生経験を積んで行くことで音楽的な理解も深まります。新しい発見をすることも多くあります。練習時間は充分ではないことを、「心の負債」として抱えている場合も多いです。しかし、負債を抱える必要が全くなく、少ない時間の中で何が出来るのか工夫していく事の大切であること、練習時間が取れなくても「心」があれば上達することを分かってもらえる様にしています。
B 全てに積極的な方々。人生を謳歌しているともいえます。
社会的な環境もあると思いますが、音符が読めない方はほとんどいません。
ピアノの演奏経験はまちまちですが、皆さん音楽的な成長・演奏能力の向上を求めていられます。
少しでも上手になりたい。
難しい曲にも挑戦したいと思っていられます。
難易度の高い曲もオリジナル楽譜も挑戦できます。
レッスンでは、曲のイメージ・解釈、作曲者の特徴にとどまらず、演奏テクニックについてもどんどんお話します。
運動生理学的な部分にも興味をもたれている方も多いです。
CとD 人生の先輩に物事を教えることである熟年の方のレッスンでは、人として先輩方とお付き合いする気持ちが大切です。
生徒さんといっても、人格的もすばらしく非常に意義のある仕事をされていた方が多くいらっしゃいます。
私は立場的には「先生」と呼ばれていますが、先輩方から見れば、未熟者です。
ですから、生き方・考え方を学ばさせていただいているという気持ちで接しています。
未熟であっても一生懸命であることが先輩方にかわいがっていただく事に繋がります。
C  大人の方は、いつも頭の中には音楽・メロディが溢れています。表現したい気持ちが強いのです。
しかし、熟年になって習い始める場合、指を動かすことは大変です。
音楽のイメージと実際の演奏のギャップを埋めてあげることが大切です。音楽を奏でる感動を感じてもらいたいです。
始めての方にとっては左右別な動きは非常に大変なので、片手でメロディを弾いてみることから始めることになります。
片手で弾ける簡単なメロディでも、心から歌うことで音楽的な感動を味わって頂く様に心がけています
D 経験がある方でも年齢を重ねれば、身体的な能力は若い頃とは違ってきます。しかし、音楽的なイメージはより深く、高いものになっていきます。この2つの要素のバランスを取れるようにしてあげたいです。
みなさん憧れの曲があります。しかしオリジナルは難しすぎる場合も多々あります。そういう場合アレンジされた楽譜積極的に使います。
更に弾きやすくリアレンジもします。大切なのはその曲の音楽的魅力感じること・弾けた歓びや達成感を持つことです。曲の音楽的魅力・音楽的感動を深く感じる事も大切です。理解することは、演奏することと同じくらい大切に感じていられます。年齢を重ねてくると、昔できたこと(弾けたこと)が出来なくなっていくこともありますが、その状況を一番良く分かっているのは本人です。
寂しい思いをされているかもしれません。出来ないことを指摘するより、今出来る

2.レッスンの形態・具体的な方法

レッスンは一般的に個人レッスン(以下Sレッスン)が中心ですが、大人のレッスンで大切なコミュニティ・仲間作りに有用であるため、大手音楽教室ではグループレッスン(以下Gレッスン)も積極的に取り入れている様です。東海大学で行っているGレッスンの経験から大人のレッスン特徴についてお話します。

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※東海大学エクステンションセンター「大人のた,めのピアノ講座」

形態 メリット デメリット
グループレッスン ・コミュニティとしての魅力
・初心者には、一緒に始めるなら緊張しないで済むという安堵感。
・アンサンブルができる。
・ピアノ以外音色のイメージが広がる。
・レッスン時間を多く取れるので、時間内に練習も出来る。
・広い教室の確保が大変・電子ピアノを使用するため音色的なクオリティは高く出来ない
・メンバーの音楽的素養をそろえる必要がある
ソロレッスン ・個人の音楽的な素養を高められる。 1対1という緊張した関係になってしまう。
グループレッスン 東海大学/大人のピアノ講座では、GレッスンとSレッスンを併設していますが、初心者の方は「弾けないことで恥ずかしい経験をしたくない」と思っている場合が多く、Gレッスンの方人気があります。
詳細は上の表ををご覧下さい。大切にしているのは教師を含めみんなが仲間であるという雰囲気を作り出すことです。5人~8人位のグループなので、教師一人では対応が難しく大学院生にピアノ教育の実践の場として手伝ってもらっています。
一年位経過すると個人差が出てきて、一緒のグループが難しくなる場合があります。Gレッスンをレベル別に分けして対応していますが、Sレッスンに収斂されていく方もいられます。
ソロレッスン 前述の様に生徒さんのタイプよって色々と工夫はしていますが、共通して言えることは、「楽しい」レッスンを心がけることです。
如何に生徒さん達と人間的な交流を深めていくかが重要です。
一緒に演奏することで得られる絆もあるので連弾も有効な手段です。
レッスンで模範演奏する場合、私は心を込めて全力で弾きます。
皆さん感受性がある方なので演奏に込められた気持ちを感じてくれます。
音楽的に分かり合えることは言葉を超えたコミュニケーションでもあります。
長く続けるには、先生・仲間との交流が大切です。
周りの人に自分の音楽を感じてもらうことは何にも変えがたい感動です。
教室内で仲間ができる雰囲気を作るように心がけています。
コミュニティー 大人のピアノレッスンでは、仲間との交流が何より大切です。
東海大学ではGレッスンを中心に添えてコミュニティ作りを目指していますが、Sレッスンの方も加えて、内輪での発表会をすることで更に仲間を作るように心がけています。
内輪というのは、仮に演奏が失敗してもお互いに許せて分かり合える雰囲気という意味です。
東海大学でも半年に一度演奏会をしています。
私たち講師も必ず演奏します。生徒さんたちとの連弾もします。
Gレッスンの強みを生かしてみんなアンサンブルもします。
一番大切にしているのは、「和気藹々」の雰囲気です。

3.大人のレッスンの特徴~教材・レッスンの進め方 

教材のジャンル 学ぶべき音楽的要素は子供も大人変わらないのですが、年齢によって好まれる音楽のジャンルも変わります。その方の好むスタイルの曲で学べる様にしていくと興味も沸き、進度も速い様です。タイムリーな話題も喜ばれます。東海大学での講座でもトリノオリンピックの頃、あの「トゥーランドッド」は人気がありました。
ソルフェージュ能力 熟年で始めると、音の判別・音符の判別に苦労される方もいられます。普段の生活で音を能動的に聴くという行為が余りなされていないためでしょう。音を積極的に聞く環境があると少しずつ理解されていきます。アンサンブルは相手の音を聞かなければならないので能動的に音を聴く訓練となるため有効な手段です。
両手で弾くということ 熟年になって始められると、両手が違う動きであると苦労される方がいられます。又、レガートで弾くにも、指先の柔軟性が必要ですが、どうしても肘・肩に力がはいってしまう様です。筋肉の柔軟性・運動神経に係わる部分は時間をかければ必ず改善されます。理解しているが出来ないという場合、長期的に見て一緒に練習しながら待ってあげることも大切です。
リズム感 熟年の方では、リズム感が一番難しいです。特に両手では、難しいところで止まってしまう方がいられます。受講されている方は「分かっているんだけど頭がついていかない。」とよく言われてます。理解していてもテンポ通り弾くことが出来ない場合、練習を重ねるとだんだん弾けるようになって来られます。俊敏に弾けるようになるためにかかる時間が、子供より少しだけ多いのです。
コードネーム 理解してから弾くという点では熟年の方は非常に優れています。ですからコードネームの考え方は積極的に取り入れた方が良いと思います。又、特にコードネームに言及しなくても、左の伴奏形の中に存在する法則等々について理解されてから弾かれると効果があります。
最後に ピアノ演奏も運動です。年齢を重ねれば、身体能力は少しずつ衰えていくのは当然です。ですから、年齢を重ねた方が現状を維持して変わらず演奏されている姿は、賞賛に値すると私は思います。非常に努力をしていることと思います。このことを忘れずに大人のレッスンをしていきたいと思っています。

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